直線と曲線の絶妙な調和のなか、いぶしのしっとりとした光沢が優美な存在感を生みだしている「東山建設ゲストハウス」。伝統的な本瓦葺きとはまた異なる、繊細な表情の甍を実現しているのが<聖瓦(数寄屋本葺瓦)>です。古代の仏教建築から連綿と続く本瓦葺きは、すでに改良の余地がないと思われていましたが、この建築を設計した山本恭弘氏(聖建築研究所)が瓦の形状そのものを含めて新たな施工システムを考案。実際の製造を担当したノミズが<聖瓦>と命名しました。
<聖瓦>における特長のひとつは、瓦の重みを大きく軽減できたことです。かつて、木組全体を押さえ込むため、屋根瓦には一定以上の“重さ”が必要でした。しかし現代では、木組を基礎に締結するため、瓦が“重さ”を持つ必要性は薄れてきたのです。むしろ瓦の重量を軽減する方が防災などの見地からは望ましいとされています。
もちろん、強度面を犠牲にすることなく<聖瓦>の軽量化は実現されています。また、加重軽減という機能性だけでなくデザイン性も<聖瓦>の特長です。トップライトを設ける場合、平瓦と同様に納めることができるよう配慮することで、景観を損なうことのない甍屋根を実現。財団法人神戸ファッション協会による平成10年度「グッドデザインひょうご」では、こうした創意工夫が評価されて大賞を受賞しました。
「モダニズムを感じさせるシャープな表情は景観デザインとしても優れている」というのが審査評です。また、国内産粘土瓦を屋根材とする優れた建築物に贈られる平成11年度「第10回甍賞」も受賞。
不変とさえ思えていた伝統的な本瓦葺きの歴史に新たなページを加えた<聖瓦>は、まさに画期的な瓦だといえるでしょう。
『聖瓦』の軽量化のポイントは、従来の強度を維持したままで限界まで形状を薄くした点にあります。また、平瓦の両端部に立上がりをつけ、できるだけ平板に近づけることで瓦の重ね代が小さくなり、径の小さな素丸瓦を用いることができる点も全体の軽量化に貢献しています。トップライトを設置する場合は、ペアガラスを瓦面と同じように納めることができるため、瓦屋根としての景観を損なうこともありません。さらに、軒先の一文字瓦と軒巴瓦の納まりも、軽快な表情を演出できるよう工夫されています。
※『聖瓦』とは、聖建築研究所(高知県香美郡土佐山田町)山本恭弘所長による設計であることが命名の由来です。