interview

 

「建築文化」の2000年3月号で一冊すべてを特集にあてられ、2000年4月から大阪市立大学教授に抜擢されるなど、いま大きな注目を集めている建築家・竹原義二氏。前述の雑誌の巻頭を飾った「海椿葉山」と「美乃里」で、栄えあるグッドデザイン賞を2000年と1999年の連続受賞。いずれも屋根に瓦を使用しており、その斬新な利用方法も着目に値する。今回は、竹原氏が抱く瓦への深い想いを、じっくりと語ってもらった。

場所と向き合うことで湧きでるイメージ

日頃から、建築を規定する要素として“場所”の問題は、非常に大きいと考えています。この「海椿葉山」で瓦を使用した理由も、実は敷地のある“場所”にありました。海のすぐ傍にあるため、塩害の問題からコンクリート素材はあまり向かない。なので、昔からの工法に倣って木を使おうと。すると屋根には瓦しかないでしょうという具合に決まっていったんです。瓦と聞くと、みんな限られたイメージしか抱かないようですが、じつはかなりの種類があるんです。日本古来の和瓦と呼ばれているものから、海外の洋瓦まで。葺き方もさまざまですね。
今回は、瓦を使うと決まった途端に、葺き方はどうするのか、屋根の勾配、水はけをどうするかまで考えた。すると屋根の格好が決まり、建築のプランやフォルムが自然と定まっていきました。これは別に変則的なことではなく、もともと屋根とは、建築のいちばん最初のプラン段階で決めなくてはいけないことなんですよね。内装は後から考えることもできるけれど、屋根は棟が上がった瞬間に葺かなくてはいけませんから。屋根を変えるということは、建物全体に影響を与えることになるわけです。とうぜん、建物の色調を最初に決めるのも瓦になります。既製品を使うだけなら良いんですが、新しい色を求めようとすれば何ヶ月もかかる。土を配合して、窯に入れ、焼きあがってくるまで1~2カ月。自然の土を焼くわけですから、オリジナルな色を出すためには、瓦メーカーさんとの協力関係が不可欠ですね。逆に、いまの建築家が瓦をあまり使おうとしないのは、そのあたりにも理由があるのではないでしょうか。

“太陽に映える色”を出発点とした瓦。

「海椿葉山」で用いる瓦の色を検討していたときに、いちばんの課題としたのは“和歌山から望む太平洋に映える色”でした。ロケーションを出発点として、煉瓦に近い色が良いんじゃないかと思い至ったわけです。考えてみると、沖縄やスペインといった、海の近いところでは昔から似た色合いの瓦があるんですよね。太陽の色や海の照り返しによって、そういう色が選ばれていくのでしょう。また、雨がよく降ることや、空の色が四季を通じて変わっていくことも重要でした。そうした自然の変化に、瓦がどういう具合に対処できるのかと。集落であるならいぶし瓦も魅力的なのですが、今回は単独で建つ施設のため、調和という意味では周囲の自然が大切でしたから。そこでノミズさんの工場まで訪れて見本を検討したんですが、淡路島のおだやかな瀬戸内海と、風が吹き荒れている黒潮の太平洋とでは海の色が違う。映える色も微妙に違うわけです。「いま見ている瀬戸内海とは海の色が違うから、もうちょっと色の加減を濃くしてほしい」「赤みを出してほしい」と、さまざまな注文を出しました。焼き物なので完全にコントロールする範囲に限界はありますが、最初に明確なイメージを合意できるかどうかもポイントでしょうね。けれど、ほとんどの建築家は工場まで足を運んだりしないし、メーカーに任せきりにしてしまう。メーカー側もある程度まで近づくと納品してしまう。幸いノミズさんは、こちらが出す要望に熱心に対応してくれましたので、「海椿葉山」の瓦はまさに狙い通りの色が出せました。もちろん、建築家側にも「こうした色を出したい」というときには“目利き”が必要です。土でどう変わるか、含まれる鉄分が多くなるとどうなるか、どこの土を使ったらいいのか、こちらも知っておかなければいけません。おたがいの作業をスムーズに進めるためにもね。

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